2025.09.052025.09.05

「モンスター社員」辞めさせたい。
でも、損害賠償だとかSNSで騒がれると面倒と感じ、リスクなく辞めさせる方法を探しているのではないでしょうか?
結論、モンスター社員をリスクなく辞めさせる方法や手順はありますが、注意点がいくつもあります。
この注意点を無視して辞めさせると損害倍書や労働組合との闘争、SNSでの社名公表といったリスクを背負うハメになります。
そこで以下では、モンスター社員をリスクなく辞めさせる8つの方法から、進め方や予防策まで幅広く解説します。
【この記事でわかること】
社員を解雇するときのトラブルは解雇までの手順を守らないことで起きる
間違った方法で辞めさせた場合の3つのリスク
タイプ別のモンスター社員を辞めさせる方法とその手順
モンスター社員の対処を弁護士に依頼するメリット
モンスター社員を生まないための予防策
「モンスター社員」とは無責任な言動等で職場の調和を乱す、他の社員の士気を下げるなど、その社員の言動により職場環境や他の社員に重大な悪影響を及ぼす社員のことです。
一口にモンスター社員といっても、4つのタイプがあります。
タイプごとに辞めさせる方法や条件が違うため、簡単にその内容を確認しておきます。
無断欠勤、遅刻・早退を繰り返す、指定された時間以外で頻繫に休憩(サボり)する、勤務時間中に居眠りをするなど、会社が指定する勤務時間を守らない社員のことです。
各種ハラスメント行為、職場内外での問題行動(犯罪など)を起こすなど、日常的な振る舞い・言動が周囲に悪影響を及ぼす社員のことです。
自分の意見ばかりを主張する、上司・同僚・部下への配慮を欠く、自分の誤りを認めないなど、会社・チームとしての行動ができない社員のことです。
単純なミスを繰り返す、顧客からの苦情が多い、営業成績が上がらないなど、会社が求める能力が欠如した社員のことです。
どのタイプのモンスター社員にせよ、辞めさせるには必ず以下8つの方法・手順を守る必要があります。
まずは問題社員の問題行動、ミスを記録しましょう。
最終的にはモンスター社員に退職勧奨、解雇することが目標ですが、それを裏づける「正当な理由」が必要です。
特定の社員がどのような問題行動を起こしたのか、ミスを犯したのかが客観的に示せることができるようできるだけ記録に残してください。
最低限、問題行動やミスを「指摘した事実」が記載されたメールなどを残しておきましょう。なお、指摘のタイミングは、発覚してすぐがベストです。
また、問題行動・ミスの改善を求めるためにもその原因を把握する必要があります。
その問題社員に直接聞き取りを行い、聞き取った内容を録音や書面に記載するという形で残すのです。。
問題社員だけではなく、周他の社員からも聞き取りを行うのも大切です。
聞き取った内容も、問題社員がどのような問題行動、ミスを起こしたのかを間接的に示せる資料になるからです。
また、聞き取りをして行く中で、問題社員がこれまで同じような問題行動、ミスを繰り返し起こしているということが判明すると、先々の退職勧奨・解雇もしやすくなるからです。。
もちろん、これらの聞き取り内容も録音、書面に記載するという形で残しましょう。
こういった裏付けを確保した上で問題社員へ直接に指導を行いましょう。
指導せずに放置しておくと周りの社員もあれくらいのミスは許されると考えてしまい、会社にとって悪影響だからです。モンスター社員か否か、成績の良い社員であるか否かにかかわらず、問題行動・ミスが発覚した場合は必ず指摘し、指導しましょう。
指導する際は、決して感情的になってはいけません。
どのような行為が問題だったのかの事実を端的に伝え、すべき対応や改善策をあわせて伝えましょう。
感情的な発言はパワハラと捉えられ揚げ足をとられかねませんので、伝え方には十分注意してください。
問題行動・ミスを指摘・指導して終わりではありません。
その後、同じような問題行動・ミスが繰り返されていないかの事後チェックをしてください。
少なくとも、問題社員についてはその後2〜3か月の間、直接面談を行い、改善されているか確認しましょう。
他の社員に対しヒアリングして、同じような問題行動・ミスが繰り返されていないか確認することも有用です。
面談の際に、同じような問題行動・ミスが改善されていない場合には、再度指導を行いましょう。何度も指導をして改善のチャンスを与えたのに、改善されなかったということが、退職勧奨・解雇の際の正当な理由になるからです。
一度注意したら終わりではなく、根気強く面談と指導を行いましょう。
そして何度も面談と指導を行ったことを客観的な資料として残しておくことを忘れずに。
面談資料や指導内容をまとめた資料があればそれがベストです。
最低限、面談や指導の内容を記載したメールを送っておくことで、繰り返し指導を行ったという形跡を残すことができます。
【STEP5】でも述べましたが、何度も指導し、改善のチャンスを与えたのに改善されなかったということが、退職勧奨・解雇を裏付ける理由になります。
そのため、指導後も問題行動・ミスが繰り返されていることも客観的に残しておきましょう。
問題社員へ再度問題行動、ミスが認められたことを端的に指摘するメールなどが有用です。
解雇は生活の経済的基盤を失わせるという点で社員に対して極めて重大な影響を及ぼします。そのため、解雇はあくまでも「最終手段」でないといけません。
解雇に至るまでに、会社としても段階的に改善策を講じる必要があります。
たとえば、営業等で成績が上がらない、顧客に対する問題行動が多い、事務作業等でミスが頻発するといった場合。
問題社員が現在所属する部署に適性がない可能性もありますので、他の部署に所属変更をするといった改善策を講じましょう。
問題行動・ミスを指摘し、指導を繰り返しても改善されないときは、いよいよ解雇を含む懲戒処分を検討できます。
懲戒処分には「戒告」、「減給」、「出勤停止」、「降格」、「解雇」などがあります。
どのような場合にも解雇してよいわけではなく、問題行動・ミスの内容によって適切な懲戒処分を選択する必要があります。
また、解雇を選択する場合であっても、社員に自主的な退職を促す退職勧奨を先に行いましょう。
以上、モンスター社員を辞めさせるためにやるべき8つのアクションになります。
他方で、モンスター社員を辞めさせる際に「やってはいけない」アクションがあります。
問題社員が問題行動・ミスを起こしたからといってすぐに解雇してはいけません。
モンスター社員を辞めさせる8つの方法・手順でも述べましたが、解雇には「正当な理由」が必要です。問題行動・ミスがそのまま解雇の「正当な理由」と認められることはすくないです。
解雇の有効性が争われた際に、裁判所に解雇されても仕方ないと判断されるために手順を踏んでください。
問題行動・ミスが発覚したにもかかわらず、指導や改善を行わないことは、モンスター社員を生む原因になります。また、問題社員だけでなく、周りの社員にも問題行動・ミスが起こっても許されると思われてしまいます。
解雇するための手順の1つでもあるので、問題行動があればすぐに指導して改善を求めましょう。
問題行動に対して指導するにしても、感情的な言い方はよくありません。感情的な言い方ではせっかくの指導も相手に受け入れられにくくなります。また、感情に任せた発言は、場合によってはハラスメントと評価される可能性もあります。
指導するときは、問題点を端的に伝えることが重要です。
4)就業規則に定めのない懲戒処分を行うこと
問題行動を度々起こす社員に対して何度も指導を行っても改善されないときは、懲戒処分を行うことも考えると思います。しかし、懲戒処分を行うためにはどのような行為が懲戒処分にあたるのか、事前に就業規則に定めておく必要があります。
懲戒処分を行う前には、必ず就業規則を確認してください。
これまで説明してきた方法を守らずモンスター社員を辞めさせた場合、以下の3つのリスクがあります。
【リスク①】損害賠償請求される
【リスク②】紛争解決のコストがかかる
【リスク③】会社の社会的評価の低下
解雇は生活の経済的基盤を失わせるものです。そのため、改善のチャンスなどを与えず直ちに解雇した場合には、解雇をどうしても避けたい社員から「解雇は無効だ」と争われ、損害賠償請求されるリスクがあります。
解雇の無効を争われるなど労働関係の訴訟は解決までに長期化することが多いです。
長引けば長引くほど、会社はその分時間的コストや、弁護士費用も含めた経済的費用がかかります。
正当な手順を踏まずに解雇した場合は、問題社員がSNS上でさわぐリスクがあります。「違法な解雇処分を受けた、パワハラを受けた、ブラック企業だ」などといった書き込みを行い、会社の社会的評価が低下することも考えられます。
モンスター社員の辞めさせ方を間違えるとこれらのリスクがあるため、その手順を守ることが大切なのです。
これらの手順を守った上で、最終手段としてモンスター社員を解雇する形となります。
ただし、「解雇」には守るべき厳格なルールがあるため、この点を確認しておきましょう。
解雇は、「労働基準法」という法律で規制されています。
まず、解雇が有効とされるためには解雇の「客観的・合理的な理由」と解雇の「相当性」が必要とされています(法16条)。
また、思い立ったらすぐに解雇できるわけではなく、原則として解雇日の少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。(法20条)。
ただし、会社は30日分の賃金(解雇予告手当)を支払えば、予告なく解雇を告げた当日に解雇することができます(法20条)。
したがって、解雇をするには、解雇せざるを得ない客観的・合理的理由があり、他の処分では改善できず解雇するほかない状況であることを前提に、解雇を予告する、又は解雇予告手当を支払うことが条件となります。
なお、懲戒解雇などの懲戒処分を行うためにはあらかじめ懲戒処分の種類、懲戒処分に該当する事由などを就業規則に明確に定めておくことが必要です。
解雇のルールを踏まえて、4種類のタイプ別にモンスター社員を解雇する方法を解説していきます。
【タイプ1】勤務態度が悪い社員
【タイプ2】素行が悪い社員
【タイプ3】協調性に欠ける社員
【タイプ4】能力不足の社員
2週間以上の無断欠勤が続く場合(ただし,無断欠勤の理由が他の社員によるハラスメントなど職場環境にある場合や精神疾患による場合は解雇できません。)、まずは無断欠勤を示す客観的な資料(タイムカードなどの出勤記録)を確認しましょう。
次に問題社員に対し、無断欠勤の理由、原因をヒアリングします。その回答に正当性がない場合は、欠勤は認められないことを端的に伝え、出勤を促します。
それでも無断欠勤が続く場合は、解雇を選択する前に退職届の提出を促しましょう。
.退職届の提出がされない場合は、無断欠勤がいつから続いているのか具体的に示し、解雇をする旨の通知を送ります。このとき、解雇通知が問題社員に届いたことを後々立証できるように内容証明郵便で送るのがベターです。
卑猥な言動、肩を抱くなどの行動はそれだけでは解雇の正当な理由になりません(過去にセクハラを理由に懲戒処分を受けているにもかかわらず何度も繰り返すという事情があれば別です)。
セクハラ社員を解雇するには、同意なくキスをする,性行為に及ぶといった悪質なセクハラであることが必須の条件となります。
その上で、本人からセクハラ被害の申出を受け、その内容について調査を行います。
被害者・加害者・その他の社員からの聞き取りだけではなく、セクハラを裏付ける客観的資料(社内を映す防犯カメラ映像など)からセクハラの事実が認められるか確認しましょう。
セクハラの事実が確認できた場合にはいよいよ、問題社員に対し厳重注意します。。
.注意をしたにもかかわらず、セクハラを繰り返す社員については配置転換や戒告などの懲戒処分を検討できます。
また、社員を特定することなくセクハラについての注意喚起を社内で行ってください。
これらの指導を行ってもセクハラ行為をやめない場合には退職届の提出を促しましょう。
退職届の提出がない場合にはじめて、「内容証明郵便」という記録が残る手段を使ってにセクハラの事実を指摘し、解雇を通知してください。
部下や同僚に対して、指導にかこつけた理不尽な要求を行うパワハラ社員についても、まずは関係者からの聞き取りを行ってください。
その結果、パワハラとされていた内容が、理不尽な要求や単なる人格否定にとどまる場合、まずは表現方法や要求を改めるように指導しましょう。
それでも改善しないパワハラ社員については、配置転換や戒告などの懲戒処分を検討できます。
また、これらの注意・処分にもかかわらず、結局パワハラが収まらない場合には、退職届の提出を促し、その後に内容証明を使って解雇の通知をするのはセクハラ社員の場合と同様です。
遅刻を繰り返すなどの「素行の悪い社員」については、まず、遅刻の回数・頻度・遅刻した事情を確認し、記録に残しましょう。遅刻の回数や頻度が少ない場合には解雇をすることはできません。
また、遅刻の回数や頻度が多い場合であっても、他の遅刻した者への処分とのバランスが取れていない場合には解雇無効が争われます。
遅刻のたびに遅刻の理由を確認し、指導を繰り返しましょう。
再三の指導でも遅刻する場合には、戒告、減給といった懲戒処分を段階的に講じ、それでも遅刻することを証拠として残します。
解雇を除く懲戒処分を行っても改善がみられない場合には、退職届の提出を促し、提出されない場合は解雇を通知しましょう。
周囲の社員と協力して業務にあたれない、指導に対し無視する、理由なく反抗するといった「協調性に欠ける社員」に対しては、問題行動・態度を改めるようまず口頭で注意します。
再三の注意・指導でも改善されないとしても、それだけでは解雇が有効とは認められません。
協調性の欠如を理由とする解雇には、その欠如の程度が著しく劣悪であり、指導ても改善されず、会社全体にとって相当な支障が生じていることを具体的に示す必要があります。
協調性のない社員の行動により、会社の業務にどのような支障が生じているか、その影響が会社の業務にとって重大なものであることを証拠として残しておくことも必要です。
また、問題社員の協調性に欠ける行動がどのような影響を周りに及ぼしているかを説明したうえで、改善を繰り返し求めましょう。
会社が求める能力・業務の客観的な基準を満たさない「能力不足の社員」も、それだけではすぐに解雇できません。
まずは不足している能力、改善点を具体的に提示し、改善のための指導を行いましょう。
また、指導を行った後は一定期間、改善のための期間を設けます。
具体的な数値や目標を設定し、達成できるかなど確認することも有用です。
何度か改善の指導を行っても改善が見られない場合は、問題社員の適性にあう部署がないか配置転換を行いましょう。
配置転換等でもなお改善が見られない場合には、その事実を告げて退職届の提出を求めましょう。
退職届の提出がみられない場合には、これまでと同様、内容証明郵便を使った解雇を通知します。
モンスター社員を潰す・解雇するまでには、守るべきルールと一つ間違えば損害賠償請求されるなどの大きなリスクを負うこともわかりました。
そのため、自社で対応するのではなく「モンスター社員対策に強い弁護士」にその対応を依頼する道があります。
そのメリット・デメリットを確認しておきます。
.感情的な言動を抑えて対処しようとしても、モンスター社員への嫌悪感から適正な対応ができないことがあります。不適切な対応によってモンスター社員を刺激することで、さらに職場の雰囲気が悪くなったり、モンスター社員がさらに攻撃的になったりする可能性があります。
.正当な手順を踏まずに解雇すると、解雇の有効性が争われ、損害賠償をしなければならないなど会社に不利益が生じます。
.弁護士に依頼して一緒に解雇までの手順を踏むことで、法的なトラブル・リスクを回避できます。
.モンスター社員を解雇するまでの手順を整備することで、新たなモンスター社員が生まれない職場環境を作ることができます。
デメリットをあえてあげるとしたら、解雇までに一定の期間を要することです。
.これまでに述べたとおり、解雇までには段階的に手順を踏まなければなりません。
.そのため、モンスター社員を辞めさせるという最終目標までに一定の期間が必要になります。モンスター社員に一刻も早く会社から出て行ってもらいたいのに、と思われるかもしれません。ですが、不適切な方法で辞めさせた場合、後々になって紛争となり、裁判所での手続が必要となると、かえって紛争は長期化します。
.会社のリスクを最小限にするためにも解雇までには一定の期間が不可欠です。
これまでの解説を通して、モンスター社員をリスクなく辞めさせるのは相当大変なことがおわかり頂けたかと思います。
そのため、そもそもモンスター社員を生まないための環境づくりも同時に心得ておくとよいでしょう。
問題行動・ミスが発覚しても放置しておくと、社員はこの程度は許されると勝手に認識し、業務態度や業務水準が低下していきます。
問題社員に限らず、問題行動・ミスがあればすぐに指摘し、指導を行い、社内・グループ内で共有することで、業務態度の意識を改善できます。
問題行動・ミスがなくても定期的に社員と面談を行い、普段から密にコミュニケーションをとりましょう。指導を行った際に社員からの反発を防ぐことができますし、どのように業務に取り組んでほしいか普段から伝えることで業務水準の向上も期待できます。
再三の指導でも改善されない場合は、本人に対し処分を下すことで本人の意識改革にも繋がりますし、周囲の社員に対する問題行動・ミスの注意喚起につながります。
.改善されない社員に対しては、会社としても厳正に対処する姿勢をみせることで自分勝手な行動をとる社員の発生を防ぐことができます。
適切な手順にしたがえば、モンスター社員に会社をやめてもらうことは可能です。
しかし、解雇するためには幾度となく指導し、面談を行うことなどの労力が必要です。
そのためには、まず、モンスター社員が生まれにくい職場環境を整えることが重要です。ですが、どうしても発生してしまうモンスター社員に対処するには、解雇が有効と認められるための手順を踏む、懲戒処分の規定を就業規則に設ける上で、モンスター社員対策に強い弁護士に相談しましょう。
2025.09.052025.09.05